愛されるものには理由がある。

愛されるものには理由がある。


前回のブログで、ハンス・J・ウェグナーの「PP66 チャイニーズチェア」について書きました。
その中で、最後に少しだけ触れたのが「CH24(Yチェア)」。

家具やインテリアに詳しくない方でも、一度は見たことがあるのではないでしょうか。
背中からアームへとつながる、特徴的なY字のシルエット。
ペーパーコードの座面。
木の温かさ。
そして、どこか見慣れたような安心感。
ホテルやカフェさまざまな場所で見かけることが多い椅子です。

でも、改めてCH24について考えてみると、
「どうして、この椅子はこんなにも長く愛されているんだろう?」
そんな疑問が浮かんできました。
単に「有名なデザイナーがつくったから」ではない。
きっと、もっと暮らしに近いところに理由があるのだと思うのです。
今回は、そんなCH24のことを書いてみようと思います。

一見シンプル。でも、実はとても複雑な椅子

CH24を初めて見ると、ものすごくシンプルな椅子に見えます。
背もたれがあって、
アームがあって、
4本の脚があって、
座面にペーパーコードが張られている。
それだけ。
でも、少し視点を変えて眺めてみると、どこにも無駄がないことに気づきます。
特に印象的なのが、背もたれからアームへと続く一本の木。
この部分は、木を蒸して曲げながら、職人の手によって形づくられています。
さらに、背もたれを支えるY字のパーツ。
そして、座面に丁寧に編み込まれたペーパーコード。
シンプルに見えるものほど、実はつくるのが難しい。
私は家具を見るとき、そういうところに惹かれます。
「何かを足して美しくする」のではなく、
「必要なものだけを残して、美しくする」。
CH24には、そんな美しさがあるように思います。

「座るため」だけではない椅子

CH24の面白いところは、ダイニングチェアとして使われることが多い一方で、置く場所を選ばないことです。
ダイニングテーブルに合わせてもいい。
デスクの前に置いてもいい。
窓際に一脚だけ置いてもいい。
寝室に置いて、洋服をちょっと掛けておくのもいい。
もちろん、正式な使い方ではないかもしれませんが、暮らしの中では、家具は自由でいいと思うのです。
「この椅子はここで使わなければいけない」
そんな決まりはありません。
むしろ、CH24は住む人の暮らしに合わせて、自然と居場所を変えてくれる。
それも、長く愛される理由のひとつなのかもしれません。

家具は「主張しない」くらいがちょうどいい

インテリアを考えていると、
「この家具を主役にしたい」
と思うことがあります。
もちろん、それも素敵です。
でも、暮らしの中に何年も置いておく家具を考えると、私は少し違うことも大切だと思っています。
それは、
「主張しすぎないこと」。
CH24は、決して地味な椅子ではありません。
むしろ、特徴的な形をしています。
それなのに、部屋に置くと不思議と馴染む。
北欧空間にも合うし、
和の雰囲気がある空間にも合う。
モダンな空間にも、ヴィンテージ家具と合わせてもいい。
家具そのものが前に出るのではなく、その空間や暮らしを引き立ててくれる。
私は、この「馴染む」ということが、家具にとってすごく大切なことだと思っています。

毎日使うからこそ、好きになっていく

CH24を語るとき、デザインの美しさについて語られることが多いと思います。
もちろん、それは間違いありません。
でも、私がもっと好きなのは、
「毎日使える美しさ」
であること。
ダイニングチェアは、特別な日にだけ使うものではありません。
朝ごはんを食べる。
コーヒーを飲む。
家族と話す。
子どもが宿題をする。
夜、少しだけお酒を飲む。
そんな何気ない時間の中で、毎日座る。
そして、毎日触れる。
家具って、実は家の中でもかなり身体に近い存在なんです。
だからこそ、見た目だけではなく、
「触ったときにどう感じるか」
「座ったときにどう感じるか」
「毎日使いたいと思えるか」
ということが、とても大切なんだと思います。

椅子は、暮らしの中で育っていく

前回のPP66では、「長く愛せるものに、人生を投資する。」
ということを書きました。
CH24を改めて見ていると、その続きを考えているような気持ちになります。
高価な家具を買うことが、必ずしも豊かなことではない。
たくさん持つことが、豊かなことでもない。
ひとつのものを長く使って、
そのものとの時間を積み重ねていく。
傷がついても、
色が変わっても、
少し古くなっても、
「これを見ると、あの頃を思い出す」
と思える。
そんな家具を持つことも、ひとつの豊かさなのだと思います。

CH24は、70年以上にわたってつくられ続けている椅子です。
それだけ長い時間を超えて、今も私たちの暮らしの中にある。
そう考えると、
「なぜ、こんなに長く愛されているんだろう?」
という最初の疑問の答えは、少し見えてくる気がします。
きっと、流行を追いかける椅子ではなく、
暮らしに寄り添う椅子だから。
そして、
使う人の時間を受け止めながら、
一緒に歳を重ねていける椅子だから。
家具を選ぶとき、
「今の自分に似合うもの」を選ぶのもいい。
でも、
「これからの自分と一緒に歳を重ねたいもの」
を選んでみるのも、私は素敵だと思います。
毎日座る一脚だからこそ、
10年後も、20年後も、
「やっぱり、この椅子にしてよかった」
と思えるものを。
CH24は、そんな家具選びを教えてくれる一脚なのかもしれません。

そして、前回PP66を書いたあとだからこそ、
改めてCH24に座ってみると、
「なるほど。長く愛されるって、こういうことなのかもしれない。」
そんなふうに思う、今日この頃です。

 

 

スラップモブラー本店/井手

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