JOURNAL vol.5-2 理想を言葉にできなくても。

JOURNAL vol.5-2 理想を言葉にできなくても。

家族が帰る場所として -和室のある暮らし-

「つくって良かったと思うのは、和室ですね」と笑顔で話すお客様。「子どもたちが帰ってきたときに、布団を敷いて泊まれる場所が欲しくて。でも、フローリングの部屋にすると普段はあまり使わなくなりそうだなと思ったんです。畳ならゴロンと横になったり、ちょっと休憩したり、日常でも自然と使えると思って。」


その想いを受けて提案されたのは、小上がりの和室。扉を開けるとまずスリッパを脱ぐ上がり口があり、その先に畳の空間が広がります。掛け軸や障子をしつらえ、旅館のような和の雰囲気に。和室の天井には栂(つが)材の板張りを採用。上を見上げたときに木の質感が感じられる、落ち着きのある空間に仕上げました。天井は意外と目に入りやすい場所です。素材にこだわることで、空間全体の完成度がぐっと上がるんです。
「見た目の美しさも居心地も、両方叶えられました」と、お客様も満足のご様子です。

ホテルライクな寝室で、心地よい朝を

寝室は「ホテルのような落ち着き」をテーマに。「朝、自然光が差し込む気持ちのいい空間にしたい」という漠然とした希望に対して、デザイナーが提案したのは 電動ウッドブラインド と ウールカーペット でした。「ボタンひとつでブラインドが上がって、光が入ってくるんです。床のウールカーペットは冬はあたたかく、夏はさらっとしていて、足触りがとてもいい。ホテルみたいな空間にしたい、という希望をちゃんと形にしてくれました。」


照明のスイッチも手元で操作できるよう設計され、寝室からウォークインクローゼットへと自然につながる動線も実現。毎日の身支度が驚くほどスムーズになりました。

収納は「合わせる」のではなく「育てる」

戸建てからマンションへの引っ越し時に、一番気になるのは収納量です。そもそもの広さが変わるので、同じ量をというのは難しかったりするのですが、今回心がけたのは、必要な場所に必要な量の収納を設けました。細かくヒアリングをしながら、キッチンにはパントリーを、玄関には大きめの収納を、洗面所にはそこで必要なストックが収納できるように、ウォークスルーのクローゼットは衣類がすべて収納できる工夫をしています。

もうひとつの収納の工夫は、フレキシブルに対応できるUSMハラーの提案でした。見せる収納、隠す収納、小物引き出しや、本棚など、各シーンでフィットさせています。
「パーツを足したり組み替えたりしながら、暮らしに合わせて形を変えられるんです。もともと使っていたものを少し組み替えたり追加をして、今回のリノベーションでぴったり収まるようにして頂きました。空間に合わせるんじゃなくて、家具が寄り添ってくれる感じですね。」

照明計画にも“考え方”を

「ダウンライトを減らすと聞いて、ちょっと不安でした。暗くならないかなって。」と最初お話をした時、お客様は心配されていました。日本の住宅では天井にダウンライトをびっしりと配置するケースが多いのですが、実は空間全体を均一に明るくする必要はないんです。リビングのように長い時間を過ごす場所は、必要な場所に必要な明るさを添えるだけで、ぐっと雰囲気が変わります。

今回の照明計画は、ペンダントライトやウォールライトを基本にしてダウンライトを補助として入れることでメイン照明を邪魔しない、むしろ引き立つように配灯しています。光が壁や床をやわらかく伝い、空間に奥行きが生まれます。明るさの強弱があることで、夜の時間がとても心地よくなるんです。

「実際に暮らしてみると、全然暗くないです。むしろ落ち着くんですよね。ホテルに帰ってきたみたいな感覚があります。」光の量ではなく、当て方と質で空間は大きく変わります。無駄に照らしすぎないことで、空間の印象も、暮らしのリズムも心地よい方向に整っていきます。

素材の力で、空間に「表情」と「奥行き」を

この住まいでは、空間全体の印象を決める“広い面”に何を使うかをとても大切にしました。広範囲の壁と天井にはポーターズペイントを採用しています(※写真 左)。塗装ならではのやわらかなマットな質感が光をやさしく受け止め、時間帯によって違う表情を見せてくれるのが魅力です。「壁でここまで変わるんだと本当に驚きました。朝と夜とで雰囲気が全然違って、毎日暮らしていて飽きません。」ポーターズペイントのしっとりとした質感は、家具や照明の存在感を引き立てる効果も。空間を包み込むようなやさしい空気感が、住まい全体の印象を静かに支えています。

床材で迷われていたお客様に対して、デザイナーが提案したのは 空間ごとに素材を切り替える床設計(※写真 右)。お部屋ごとに素材を変えることで、空間に自然なリズムとメリハリが生まれます。リビングにはオーク材をオイルステイン仕上げで使用しました。自然な木目と深みのある色味が、家具や照明を引き立ててくれます。廊下や洗面などの水まわりはタイルを採用し、耐久性とメンテナンス性を重視しました。寝室は、足触りのよいウールカーペットにして、季節を通して快適に過ごせる空間にしています。「歩く場所によって空気が変わる感じがして、とても気に入っています。リビングは木のあたたかみがあって落ち着きますし、寝室のカーペットは裸足で歩くとホテルみたいな心地よさ。部屋ごとに気分が変わるのが楽しいです。」

言葉にできなくても、想いはカタチになる

眺望を活かした回遊動線、旅館のような和室、ホテルライクな寝室、機能とデザインが両立したキッチン、そして柔軟に使える収納とサウナのある暮らし。「最初に相談したときは、本当に“こうだったらいいな”くらいしか言えなくて。でも、デザイナーさんが一つひとつ引き出してくれて、具体的な提案にしてくれたんです。結果的に、自分たちでは思いつかないような住まいになりました。」
理想を言葉にできなくても、丁寧に耳を傾けてくれるプロがいれば大丈夫。何気ない一言が、心地よい暮らしをつくる第一歩になります。

DESIGNER’S COMMENT
A様邸は、「機能性」と「デザイン性」の両立が見事にかなえられた住まいです。眺望を活かした回遊動線、柔らかな光を取り込む窓まわりのデザイン、家族の帰る場所になる和室、そして毎日の時間を豊かにするキッチンとサウナ。「言葉にできない理想」を丁寧に汲み取り、空間として具体的に提案することで、暮らしの質が大きく変わる。そんなことを改めて感じさせてくれるリノベーション事例でした。

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